オルガンリサイタル「音景」ー響き合うかたちー 細川久恵 ☓ 矢部澄翔
リサイタルによせて
音楽の原風景
10 世紀頃のヨーロッパで、キリスト教修道会を中心に広まった建築に、ロマネスクと呼ばれる石造りの教会があります。石に囲まれた空間は、小さな窓から射しこむ光や、堂内の灯によって、神秘的な光と影の造形を生み出します。そしてそこに響く単声の緩やかな祈りの歌は、自然・宇宙の秩序に呼応して、すべてを調和に導きます。その後、音楽は多様な発展を遂げその可能性を広げていきましたが、時代を越えてなお私たちの心を打ち、また癒す作品は常に、根底でこの単純性と統一性に繋がっているのではないでしょうか。
音とかたち
紙と墨をもって自らの身体と精神が世界と向き合う「書」は、また瞑想の行為ともいえます。作者は、静かに流れる時の中で、紙と筆が触れ合う音を聞いています。その動きは、世界と自己の一致を目指す根源的な願望に突き動かされているようです。音とかたちの交差は、互いの輪郭を開放し、響き合い、すべての色彩を内包する「光と影」の世界へと導くでしょう。「細川久恵 オルガンリサイタル 2020」は、響きと光の原点を旅します。
※本公演は、延期となっておりましたが、
2021年6月26日(土)に開催することが
決定いたしました。
本日、パイプオルガン奏者 細川久恵さんのリサイタル「音景」が無事に終了いたしました。
この度はコロナ禍にもかかわらず「音景」リサイタルにお越しくださり、本当にありがとうございました。
1部で書いた文字は、「天の海に雲の波立つ月の星 星の林に漕ぎ隠る見ゆ」「光風音」。細川さんがインスパイアされたイタリア・フィレンツェの丘の上にある修道院のお話を伺い、その後実際に私も息子を連れて足を運びました。12時を告げる鐘の音を聞きながら街を見下ろした時の景色を思い出しながら描きました。
そして2部のトッカータに挑むが如く選んだ「曙」には、夜明け、新しく事態が展開しようとする時、の意があります。風の時代へ突入し、世の中の常識がガラリと変わりました。コロナにより日常が奪われ、芸術に触れる機会も失いました。コロナの収束を祈り筆を執りました。
生の空間をお客様と共にリアルで共有できる場は、今となっては非常に贅沢な瞬間で、知らずのうちに疲れきった心を癒してくれた人も多いのではないかと思います。
感染対策防止のため、来場者の皆様とのご挨拶も会場規定により控えさせていただかなくてはならなくなり、それだけは非常に心残りとなりましたが、このような中で表現する機会をいただき皆様と共有できたことを心より感謝申し上げます。
ありがとうございました。
2021.6.26 矢部澄翔